フレッシュホップビールと日本産ホップ栽培の10年
2015年4月、京都府与謝野町の畑にホップの苗が植えられた。同年10月3日、東京のスプリングバレーブルワリーで「第0回フレッシュホップフェスト」が開幕し、収穫されたばかりの与謝野産毬花(まりはな)を使ったビールが並んだ。日本産フレッシュホップビールの歴史は、この一年に幕を開けた。
以来10年。岩手県遠野市、秋田県横手市、島根県松江市、茨城県額田町、静岡県、そして神奈川県横浜市と、産地は全国に広がっている。
フレッシュホップとドライホップ、何が違うのか
ビールに使われるホップは通常、収穫後に乾燥・ペレット化して保存される。これが「ドライホップ(ペレット)」で、世界中のほぼすべてのビールに使われている形態だ。フレッシュホップ(別名「ウェットホップ」)は対照的に、収穫したばかりの生の毬花をそのままケトルへ投入する。
この差は数字に表れる。生の毬花の水分含量は約80%に達するため、ペレットと同等の苦味・香り成分量を得るには約5〜10倍の重量が必要になる。醸造所と農場の距離が問題になるのはこのためで、収穫から数時間以内に仕込みを開始しなければ、鮮度は急速に失われる。
乾燥工程で揮発してしまう低沸点の香気成分が、生の毬花には保たれている。草っぽさや青みを帯びた柑橘感、みずみずしい植物的な香り——これを「グリーンホップキャラクター」と呼ぶ醸造家も多い。ペレットでは再現できない風味だ。
横浜市港北区・古川原農園、2025年8月の収穫現場
横浜市港北区の古川原農園では、2025年8月2日に9回目のホップ収穫が行われた。台風接近の影響で一般参加者向けツアーは中止になったが、横浜ビールの醸造スタッフ、飲食店スタッフ、常連ボランティアら総勢16名が集まった。
緑のカーテンのように伸びたホップ棚から、参加者が毬花を一つひとつ手で摘み取る。畑には柑橘とハーブが混ざり合った香りが漂い、作業しているうちに手もその香りを纏う。摘まれた毬花はその日のうちにブルワリーへ運ばれ、翌日の仕込みに備える。
農家・醸造家・飲食店・消費者が同じ畑で汗を流し、同じビールを飲む。この「Farm to Glass(畑からグラスへ)」のつながりが、産地と飲み手の距離を縮める。横浜のような都市部でホップが育てられるのは、その距離を極限まで詰めたいという意志の表れでもある。
第0回フェストが記録した産地の多様性
2015年10月の「第0回フレッシュホップフェスト」に並んだビールのリストは、当時すでに複数の産地が動いていたことを示す記録として残っている。
岩手県遠野産ホップを使ったSVBの「HOP FEST 2015」、茨城県額田産と京都府与謝野産を組み合わせた常陸野ネストビールの「Fresh Cascade Ale」、秋田県横手産の「横手Fresh Hop Bitter」、島根県松江産を使った松江ビアへるんの「ゼウスビター」、静岡県産を使ったベアードブルーイングの「信州早生ウェットホップエール」——。初回1イベントで7種類以上の産地が揃った。
与謝野でのホップ栽培が始まったのも、このフェストが開かれたのも、同じ2015年だった。「第0回」という名が示すように、まだ起点にすぎなかった。しかしビールの多様性が、この分野の底力を証明していた。
フレッシュホップビールをいつ、どこで飲むか
ホップの収穫は概ね8〜9月。仕込みは収穫直後に行われ、提供開始は9〜11月頃になる。この窓を逃せば翌年まで待つことになる——年1回限定であることが、フレッシュホップビールの価値を支えている。
入手経路は大きく三方向に分かれる。ブルワリーのタップルーム直販が最も確実で、毎年「フレッシュホップフェスト」のようなシーズンイベントも複数開催される。産地と連携したクラフトビール専門店では、ボトルや缶での販売も行われる。オンライン販売は数量限定で早期完売が多いため、ブルワリーのSNSを事前にフォローしておくのが実用的だ。
初めて飲む場合は、苦味より香りが前に出るセッション系(IBU 20〜35程度)のフレッシュホップエールから入ると、グリーンホップキャラクターを感じやすい。同じ品種でも年ごとに香りの強度が変わるのが、フレッシュホップならではの醍醐味だ。
産地が続かなければ、ビールは変わる
2015年から10年が経ち、日本産ホップは「珍しい試み」から「クラフトビールの文脈で当然あるもの」へと変わりつつある。北海道で開発されたソラチエースが世界中の醸造家に使われるように、日本発の品種が国際市場に出る時代にもなった。
次の10年の問いは、産地の持続可能性だ。気候変動はホップの収穫量と香気成分の構成比に直接影響する。産地が消えれば、フレッシュホップビールの多様性も消える。フレッシュホップビールを選ぶ行為は、その産地への小さな支持表明でもある。
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出典
- 畑からビールグラスへ、ホップがつなぐ特別な一杯 - japanhop.jp: 台風の影響が心配された8月2日、横浜市港北区の古川原農園では、2025年で9回目となるホップの収穫が行われました。本来なら一般の参加者も加わり賑わうはずでしたが、あいにくの天候でツアーは中止に。その代わりに集まったのは、横浜ビールの醸造スタッフ、ビールを提供する飲食店のスタッフ、そして毎年参加しているビール好きのボランティアたち、総勢16名でした。
- ホップコラム 2025年 最終回日本産ホップ、この1年、そしてこの10年を振り返る - japanhop.jp: 2015年の4月に与謝野でホップ栽培が始まり、10月3日〜4日に、【第0回フレッシュホップフェスト】が【スプリングバレーブルワリー(以下、SVB)東京】で開催されたからです。 【フレッシュホップフェスト】は、日本で初めて【日本産のフレッシュホップ】にフォーカスしたイベントでした。
- ホップコラム 2025年 最終回日本産ホップ、この1年、そしてこの10年を振り返る - japanhop.jp: ・HOP FEST 2015(SVB)岩手県遠野産ホップ使用 ・藤原ヒロユキフレッシュホップスペシャル1(SVB)京都府与謝野産ホップ使用 ・TOKYO BLUES フレッシュホップ(多摩の恵)岩手県産ホップ使用 ・遠野の華(遠野麦酒ZUMONA)岩手県遠野産ホップ使用 ・Fresh Cascade Ale(常陸野ネストビール)茨城県額田産ホップ、京都与謝野産ホップ使用) ・横手Fresh Hop Bitter(常陸野ネストビール)秋田県横手産ホップ使用 ・ゼウスビター(松江ビアへるん)島根県松江産ホップ使用 ・信州早生ウェットホップエール(ベアードブルーイング)静岡県産ホップ使用