ホップ自家栽培入門:カスケードで始める収穫と醸造

ホップ自家栽培入門:カスケードで始める収穫と醸造

ホップのつるは1日に10センチ以上伸びる。春に地下茎(ライゾーム)を植えれば、梅雨が明けるころには高さ5〜6メートルの緑の壁ができあがり、8月には直径3〜4センチの毬花(まりはな)が鈴なりになる。この植物を家庭のベランダや庭で育てているクラフトビール愛好家が、日本でも少しずつ増えてきた。

カスケード・ナゲット・ザーツ——日本で育てる品種の正直な評価

世界に数百品種あるホップのうち、日本の高温多湿な夏に耐えられる品種は限られる。自家栽培の定番として選ばれるのが次の4品種だ。

**カスケード(Cascade)**はアメリカ・ヤキマバレー原産。アルファ酸4.5〜8.9%、グレープフルーツや柑橘系の精油が豊富で病気への耐性が高い。アメリカンペールエール(APA)やIPAを中心に幅広いビアスタイルに対応し、日本のクラフトブルワリーでも最も使われる定番品種。初心者の第一選択として間違いない。

**センテニアル(Centennial)**はアルファ酸9.5〜11.5%とカスケードより苦味付けに使いやすく、「スーパーカスケード」とも呼ばれる。特性が近いため、カスケードで一年経験してから試すと扱いやすい。

**ナゲット(Nugget)**はアルファ酸9.5〜14%と高く、病気への耐性も収穫安定性も高い。スタウトやポーターの苦味付けに向く品種で、見た目の印象より丈夫でプランター栽培のセカンドチョイスに向いている。

**ザーツ(Saaz)**はチェコ・ボヘミア地方原産。アルファ酸2.5〜4.5%の低αアロマホップで、ピルスナーやボックに使われる繊細なスパイシー香が魅力だ。ただし高温多湿に弱く、東北や北海道以外で育てるなら相応の覚悟が要る。カスケードやナゲットと比べてうどんこ病のリスクが格段に高い。

梅雨と高温が最大の敵——日本栽培特有の病気対策

ドイツのハラタウやアメリカのヤキマバレーは夏の日照時間が長く、湿度が低い。日本の夏はその逆で、梅雨の長雨とその後の高温多湿がうどんこ病・べと病の温床になる。これが日本でホップを育てる最大の難所だ。

対策の核心は「風通し」と「葉の密度のコントロール」に尽きる。つるが混み合ってきたら積極的に間引き、地際から1メートル以内の葉はすべて取り除く。ビール醸造農家では農薬を使う場面でも、家庭栽培なら銅水和剤(ボルドー液)の散布で多くのケースに対応できる。

水やりは「土の表面が乾いたらたっぷり」が基本で、過湿より乾燥気味のほうがホップは好む。プランター底から水が抜けない環境は根腐れに直結するため、底穴の多い鉢を選ぶことが重要だ。

深さ40センチ・容量30リットルが最低ライン——プランターと土の選び方

都市部のベランダ栽培では、プランターの選択が収量を大きく左右する。最低限のラインは深さ40センチ・容量30リットルで、これ以下だと根が詰まり毬花の数が激減する。理想は深さ50センチ・容量45〜60リットルだ。

土は排水性と保水性のバランスが決め手で、野菜用培養土をベースに赤玉土(中粒)を2〜3割混ぜると水はけが改善する。適正pHは6.0〜8.0で、酸性に傾いている場合は苦土石灰で調整する。元肥として緩効性化成肥料を土1リットルあたり3〜5グラム混ぜ込み、生育期(5〜7月)は2週間に1回液体肥料を追肥として与える。

植え付けから収穫まで130日——3月下旬からの成長カレンダー

3月下旬から4月が植え付けのベストシーズンで、桜の開花が目安になる。ライゾームを使う場合は芽を上に向けて5センチ程度の深さに埋め、ポット苗なら根鉢を崩さずに植え込む。遅霜の予報がある夜は室内に取り込む。

5〜6月は成長が急加速する時期だ。つるが伸び始めたら時計回りに支柱へ誘引する——ホップのつるは右巻きで伸びる性質があるため、逆向きに誘引しようとすると自然に外れてしまう。1本のライゾームから複数のシュートが出てくるが、太くて元気な2〜3本だけ残して他は摘み取る。間引いたシュートは天ぷらにして食べられるが、それはまた別の話だ。

収穫の判断は7〜8月。毬花の内側の苞葉(ルプリン腺)が鮮やかな黄色になり、触れると松ヤニのような香りが指に残れば完熟のサインだ。完熟後に放置すると香りが飛ぶため、タイミングを逃さないことが重要になる。

収穫後72時間の乾燥が香りの鍵——水分75%からの脱水処理

収穫直後のホップは水分含有量が75〜80%に達する。これをそのまま使うと発酵に悪影響が出るため、水分を8〜10%以下まで乾燥させる必要がある。

最もシンプルな方法はネットに広げて風通しの良い日陰に置く「風乾」で、72時間ほどで適正水分まで下がる。温度が35度を超えると精油が揮発するため、真夏の直射日光は厳禁だ。食品乾燥機を使う場合は40度設定が上限になる。乾燥後はジップロックで空気を抜いて密封し、冷凍庫に入れれば6〜12ヶ月は品質を保てる。なお、乾燥後100グラムを得るには生の毬花が400〜500グラム必要だ。

自家栽培ホップで醸造するとき——アルファ酸不明という現実との付き合い方

自家栽培ホップで醸造する最大の課題はアルファ酸の含有量が不明なことだ。商業ホップはロットごとにアルファ酸が表示されているが、自家栽培では計測設備がない限り正確な数字は出ない。

実用的な対応策は2つある。ひとつは「苦味に頼らないスタイルで設計する」こと——ヴァイツェンやベルジャンセゾンのようにホップの役割をアロマ中心に絞れば、アルファ酸の誤差が最終的な苦味に与える影響は限定的になる。もうひとつは「同品種の商業ホップの平均値を参照値として計算し、収量の8割を目安に投入する」手法で、カスケードなら平均値6%前後を仮定して組み立てるのが現場的な判断だ。

収穫量の目安として、1株目の初年度は乾燥後200〜300グラム程度にとどまることが多く、2〜3年目から本来のポテンシャルが出てくる。最初の夏は「育て方を覚える年」として割り切り、翌年以降の収量増加に期待するのが現実的な見方だ。

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