収穫したてのホップ毬花、その水分量は約80%にも達する。この瑞々しいアロマをどう活かすか。自家栽培の特権を最大限に享受するための活用法は、ビール醸造という王道だけにとどまらない。丹精込めて育てた毬花のポテンシャルを120%引き出す、5つのアイデアを紹介しよう。年に一度の祝祭ビールから、意外な料理への応用まで。
水分80%の生ホップで仕込む、年に一度の祝祭ビール
自家栽培ホップの最大の楽しみは、やはり自分のビールに使うことだろう。特に、収穫直後の生ホップ(フレッシュホップ、またはウェットホップ)で仕込むビールは、格別の味わいだ。
生ホップは水分を約80%も含むため、一般的なレシピで使われる乾燥ホップの代替として使うには、重量換算で4〜6倍量が必要になる。これは決して少量ではないが、それだけの価値がある。なぜなら、乾燥工程で失われてしまう葉緑素由来の青々しい草の香りや、酸化・変質する前のピュアなテルペンオイルがもたらす、驚くほど生き生きとしたアロマをビールに与えられるからだ。
ただし、一つ注意点がある。自家栽培ホップはアルファ酸の正確な含有量が不明なため、煮沸初期に投入して苦味を計算する「ビタリング」には向かない。香りを最大限に活かすため、煮沸終了間際のワールプールや、発酵後のドライホッピングで贅沢に投入するのが定石だ。毎年秋にだけ醸造できるこの「フレッシュホップエール」は、アメリカのSierra Nevada Brewing Co.が造る「Celebration Fresh Hop IPA」の成功も手伝い、クラフトビールシーンで確固たる地位を築いている。
自家製ドライホップは「アロマの切り札」として使う
収穫したホップを乾燥させれば、年間を通してビール造りに使える。しかし、自家乾燥ホップもまた、アルファ酸の数値が不明という点は生ホップと同じだ。計算された苦味を求めるIPAやラガーでは、主力のビタリングホップとして使うのはリスクが伴う。
そこで提案したいのが、役割分担という考え方だ。苦味付けは、アルファ酸含有量が明記された市販のクリーンな高α酸ホップ(例えばマグナムやヘラクレス)に任せる。そして、自家製の貴重なホップは、香り付けの「切り札」として、煮沸の最後やドライホッピングで惜しみなく使うのだ。この方法なら、安定した品質の土台の上に、世界に一つだけの個性的なアロマを乗せることができる。いわば、市販ホップと自家製ホップの長所を組み合わせたハイブリッド醸造だ。
ドイツの伝統に倣う、鎮静のホップティー
ビールの原料というイメージが強いホップだが、ヨーロッパでは古くからハーブとして親しまれてきた。最も手軽な活用法が、ホップティーだ。
作り方は驚くほど簡単。乾燥させた毬花を2〜3個(約2〜3g)、カップに入れて熱湯を200ml注ぎ、5〜7分ほど蒸らすだけ。その味わいは、ビールの苦味とは異なる、穏やかでハーバルな風味。ホップに含まれるフムロンやルプロンといった成分には鎮静作用があるとされ、ドイツでは伝統的に不眠対策のハーブティーとして飲まれてきた歴史を持つ。
もし苦味が気になるなら、蜂蜜やレモンを少し加えると格段に飲みやすくなる。カモミールやレモングラスとブレンドするのも良いだろう。カフェインを含まないため、就寝前のリラックスタイムには最適の飲み物だ。
英国王も愛用?香るサシェと安眠ホップ枕
ホップの心地よい香りは、飲むだけでなく、空間で楽しむこともできる。乾燥ホップをモスリンやオーガンジーの布袋に詰めるだけで、安眠を誘う「ホップ枕」が完成する。ほのかなハーバルな香りが心身を落ち着かせる——この知恵は古くから伝わり、一説には不眠に悩んだイギリスのジョージ3世も愛用したと言われている。
その香りの主成分の一つ、フムレンには昆虫忌避効果も期待されている。小さなサシェ(香り袋)にしてクローゼットや衣装ケースに忍ばせれば、化学薬品を使わないナチュラルな防虫剤として活躍してくれるだろう。ビールの魂は、こんな形でも私たちの生活を豊かにしてくれるのだ。
食卓を彩る新芽と、空間を飾る毬花のリース
ホップの活用法は、収穫の秋だけにとどまらない。春、地面から顔を出す若芽(ホップスプラウト)は、実は食べられることをご存知だろうか。ベルギーでは「jets de houblon」と呼ばれ、バターソテーなどにして食される春の高級食材。その味わいは、アスパラガスに似た繊細な風味とほのかな苦味が特徴で、まさに栽培家だけが味わえる旬の恵みだ。
そして収穫した毬花は、つるを長めに残して乾燥させれば、それ自体が美しいドライフラワーになる。くるりと巻いてナチュラルなリースを作れば、インテリアとしても存在感は抜群。ドイツやベルギーのビアレストランでホップのつるが飾られている光景は、ビール文化が根付いた土地の日常。自宅の壁に一つ飾るだけで、そこはもうあなただけのビアパブに変わる。
地下で眠る根茎へ——来シーズンへのプロローグ
すべての収穫が終わると、ホップのつるは役目を終えて枯れていく。だが、これは終わりではない。来シーズンに向けた準備の始まりだ。
地上部が完全に枯れたら、地際でばっさりと切り戻そう。病害虫の越冬場所にならないよう、枯れたつるや落ち葉はきれいに片付けることが重要だ。地上には何もなくなり少し寂しい光景になるが、土の中では地下茎が静かに春を待っている。
冬の間も根茎は生きている。土が完全に凍結しないよう、週に1回程度の水やりは続けたい。さらに、株元にバークチップや腐葉土を3〜5cmほどの厚さで敷く「マルチング」を施せば、厳しい寒さから地下茎を保護できる。
春になれば、また力強い芽が顔を出す。2年目以降の株は地下茎が充実し、1年目とは比べ物にならないほど太くたくましいつるが伸び、毬花の数も格段に増えるはずだ。ベランダの小さな鉢から始まったホップ栽培。来年の収穫が、今年以上に楽しみになるに違いない。良い収穫を!