ビールは「苦い水」じゃない 4 / 10
第4話 2 分で読めます

IPAという名のラブレター

IPA——India Pale Ale。クラフトビールの世界で最も人気のあるスタイルだ。

18世紀、イギリスはインドに大量のビールを船で送っていた。でも赤道を越える長い航海で、ビールが腐ってしまう。そこで醸造家たちは考えた——ホップを大量に入れれば防腐効果で持つんじゃないか? と。

結果、ホップたっぷりの苦くて力強いビールが生まれた。これがIPAの原型だ。

アメリカで生まれ変わったIPA

面白いのは、現代のIPAが18世紀の姿とは全然違うこと。1970年代、アメリカのクラフトブルワーたちが カスケード というホップで新しいペールエールを作り始めた。グレープフルーツのような鮮やかな柑橘の香りは、それまでのイギリスビールにはないものだった。

1990年代に入ると、シトラ、モザイク、シムコーといった高アロマ品種が次々と開発される。これらのホップで作るアメリカンIPAは、マンゴーやパッションフルーツを思わせるトロピカルな香りが特徴だ。苦味だけのビールから、香りで魅せるビール へとIPAは進化した。

IPAの派生スタイル

現在、IPAにはいくつかの主要な派生スタイルがある。

ウエストコーストIPA: クリアな外観に強い苦味とシトラスアロマ。ドライな飲み口で、麦芽の甘味は控えめ。IBU 60〜80程度。元祖アメリカンIPAに最も近いスタイルだ。

Hazy IPA(ニューイングランドIPA): 2010年代にバーモント州から火がついた。濁った黄金色の外観、柔らかい口当たり、ジュースのようなトロピカルフルーツの香り。苦味は穏やかで、ドライホッピングを大量に使う。日本のクラフトビールシーンでも大人気だ。

ダブルIPA(インペリアルIPA): アルコール度数7.5〜10%、IBU 65〜100超。通常のIPAをスケールアップした「もっと」の世界。麦芽もホップも増量して、パワフルな味わいに仕上げる。

セッションIPA: アルコール度数を3.5〜5%に抑えたIPA。IPAの香りは楽しみたいけど酔いたくない、という需要に応えるスタイル。ランチビールに最適。

日本とIPA

日本のクラフトビール市場でも、IPAは最も人気のあるスタイルのひとつだ。伊勢角屋麦酒のペールエール、志賀高原ビールのMiyama Blonde、箕面ビールのスタウトなど、日本のブルワリーは世界大会で金メダルを獲るレベルに成長している。

コンビニでもクラフトIPAが買える時代になった。よなよなエールやインドの青鬼は、その入り口として最高の一杯だ。

IPAはインドへのラブレターから始まり、アメリカで生まれ変わり、今や世界中のビール好きを魅了している。次にIPAを飲むとき、この歴史を思い出してみて。ちょっとだけ、味わいが深くなるから。